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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)203号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

1 本願意匠が、意匠に係る物品を「ハム(ソーセージ)」とし、その形態が別紙第一記載のとおりであることは、前記のとおり当事者間に争いがない。

また、成立に争いない甲第四号証によれば、引用例には、別紙第二のとおりの形態(引用意匠)の菓子が記載されていることが認められる。

そこで、両意匠を対比して考察すると、両意匠は、意匠に係る物品が製造食品である点で同一であり、かつ、その基本的な構成態様が、芯状のものとその周囲を包む表皮状のもので構成し、全体を短い柱状に形成したものである点において共通していることが明らかである。

2 次に、具体的な態様について検討すると、両意匠は、その側面の形状が、おおむね偏平状を呈するかまぼこ形、すなわち中高で湾形をなしており、かつ、側面の外周には厚い表皮状のものが、内方にはつまつた芯状のものが表されている点で、共通するが、側面の右形状を更に詳しくみると、本願意匠においては、かまぼこ型の上部曲線の中央から片側半分を、わずかに斜状に形成しているのに対して、引用意匠においては、頂面をわずかに押し下げた形状としている点で、両意匠は相違しているということができる。

3 意匠の側面の形態について

原告は、本願意匠は側面の外周部を山の形状としたことを特徴とするのに対し、引用意匠の側面は矩形状であると主張する。両意匠が側面外周の形状において相違する点があることは、前記認定のとおりであり、審決もこの点を、「本願意匠が、略偏平かまぼこ型のうち中央より片側半分をわずかに斜状としたものであるのに対して、引用意匠は、頂面をわずかに押し下げた態様の偏平かまぼこ型である点の差異が認められる。」として、両意匠の差異点としてとらえているところである。

そこで右差異点について検討すると、棒状の製造食品において、その側面(断面)の形状を、角がなく滑らかで、しかも座りが良い横長のかまぼこ形のものとすることは、古来広く知られたところであることは社会通念に照らし明らかであつて、引用意匠もその一例にほかならないというべきである。

本願意匠は、この広く知られた形状に基づいて、その側面の上部曲線を左右アンバランスに傾けたものといえるが、それでもなお、本願意匠の側面は、全体として丸みを持つた柔らかい感じを保つており、側面の輪郭としては格別特異性の認められる態様のものとは考えられない。したがつて、右差異点は意匠全体の基本的な構成態様を凌駕するほどの差異とは認められないとした審決の判断は、正当である。

なお、原告は、本願意匠は側面において芯部を外周部と同様に山の模様としているが、引用例記載のものはそうではないと主張している。しかしながら、両意匠のような形状の製造食品の側面に現れる模様は、その食品の原材料や製造方法によつてほぼ不可避的に決まることであつて、そのこと自体では、意匠の類否判断に重大な影響を及ぼすものとは認められない。ことに、本願意匠の芯部の模様は、外周部の形状と相似のものであるが、そのように芯部の模様が外周部の形状と相似で年輪状を呈するものは、製造食品においては何ら特異性の認められない態様のものといわざるを得ないから、審決が、この点は引用意匠との類否判断の要素としては微差にすぎないと判断したことも、正当である。

4 意匠の全体の形状について

原告は、本願意匠に係る物品のハムは三〇センチメートル以上の柱状細長体であるのに対し、引用意匠に係る物品の菓子はにぎり寿司程度の短い柱状であつて、両意匠の間には大きく目立つた差があると主張する。

しかしながら、意匠にかかる物品の実際の大きさが意匠の要素をなすものでないことはいうまでもないところ、別紙第一及び第二によれば、看者が両意匠を観察する場合、本願意匠の側面の面積と全体の長さとの比は、引用意匠のそれと比較して、起こされる美観の点において差があるとは認められないから、両意匠は「短い柱状のもの」である点で共通するとした審決の判断は、正当というべきである。

5 このようにみてくると、原告の主張はいずれも採用できないのであつて、審決が本願意匠と引用意匠に共通するとした具体的態様、すなわち「全体が、側面形状をほぼ偏平かまぼこ型とした短い柱状のものであつて、側面において外周に厚い表皮状を表わし、内方をつまつた芯状とした態様」は、看者の注意を強く引くところとして、両意匠の形態に関する主要部を構成するものであり、かつ、全体の基調をなす特徴といい得るから、意匠の類否判断を左右する支配的要素と認めるのが相当である。

したがつて、両意匠の形態は、共通する具体的態様によつて表象される「まとまり」において共通し、これから生ずる美感をも共通にすることとなるから、本願意匠は引用意匠に類似するものというべきである。

6 以上のとおりであつて、本願意匠は引用意匠に類似するものであるから意匠法第三条第一項第三号に該当し意匠登録を受けることができないとした審決の判断に、誤りはない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の請求は失当としてこれを棄却する。

〔編註その一〕 本件に関する特許庁における手続の経緯および審決理由の要点は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五五年五月一二日、意匠に係る物品を「ハム(ソーセージ)」とする別紙第一記載のとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)について、意匠登録第五三八五一九号意匠を本意匠とする類似意匠登録出願(昭和五五年意匠登録願第一八四九三号)をしたところ、昭和五八年一月二八日拒絶査定を受けたので、同年五月二日大岳一郎の通称を用いて審判を請求し、昭和五八年審判第九七〇三号事件として審理された結果、昭和六二年九月一八日に、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年一〇月三日原告に送達された。

二 審決の理由の要点

本願意匠は、意匠に係る物品が「ハム(ソーセージ)」であり、意匠に係る形態が図面によつて表されたもので、その意匠の内容は別紙第一に示すとおりである。

これに対して、原審が類似するとして引用した意匠は、特許庁資料館所蔵(受入昭和五三年一月一〇日)の雑誌「暮しの設計」一九七八年第一一八号「京のお菓子」第九八頁(以下「引用例」という。)所載の菓子の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第J五三〇〇四八四六号。以下「引用意匠」という。)であつて、同記載の全体からその意匠の内容は、別紙第二に示すとおりである。

そこで本願意匠と引用意匠について比較検討すると、両意匠の形態に係る具体的な態様について、全体が、側面形状をほぼ偏平かまぼこ型とした短い柱状のものであつて、側面において外周に厚い表皮状を表し、内方をつまつた芯状とした態様の点が共通しているものと認められる。

ところが、両者間には、主として側面形状において、本願意匠が、ほぼ偏平かまぼこ型のうち中央より片側半分をわずかに斜状としたものであるのに対して、引用意匠は、頂面をわずかに押し下げた態様の偏平かまぼこ型である点の差異が認められる。

しかしながら、この点については、側面形状においてほぼかまぼこ型を呈する態様のものは、食品とされる物品の分野の意匠においては、古くより比較的多く見受けられるところのものであり、本願意匠も側面形状におけるほぼ偏平かまぼこ型のうち中央より片側半分をわずかに斜状としたものであるが、表面全体が丸味を持つた態様のものであつていわゆるやわらかい感じの斜状であり、側面の外輪郭全体としてはそれほど格別な特異性の認められる態様のものではなく、また、本願意匠のように短い柱状を呈する態様の意匠にあつて、ことさら側面形状の小さな差異が意匠全体の類否判断に主として影響を与えるものとは認められず、意匠全体の基本的な構成態様を凌駕するほどの差異とは認められない。そのほか、側面形状のうち下辺に表れる態様について、本願意匠が、つなぎ目のないものであるのに対して、引用意匠はつなぎ目様のものが見られる旨をも主張するが、主として食品の意匠の分野にあつては、その製法によつていわゆるつなぎ目が表れたり表れなかつたりすること、とくにつなぎ目が重ね合せで作られたり、いわゆるつき合せで作られたりすることも古くより広く知られているところであつて、そのこと自体では意匠の類否判断に重大な影響を及ぼすものとは認められないところであり、ことに本願意匠はつなぎ目の表れていないものであつて何ら特異性の認められない態様のもので、しかも意匠全体としてはいわゆる裏側にあたる部位における極めて小さい限られた差異であつて、両意匠の類否判断の要素としては微差にすぎない。

してみると、前記の差異があいまつた効果を考慮したとしても、前記の共通するとしたその具体的な態様は、看者の注意を強くひくところであつて、両意匠の形態に関する主要部を構成するものであり、かつ全体の基調をなす特徴といわざるを得ないものであるから、たとえ、その構成態様にさほどの特徴が認められないものであつたとしても類否判断を左右する支配的要素と認めざるを得ない。

したがつて、両意匠の形態について、共通するとしたその具体的な態様によつて表象される「まとまり」が共通し、これから生ずる美観をも共通することになるから、両意匠は類似する意匠であるといわざるをえない。

以上のとおりであつて、本願意匠は引用意匠に類似するものであるから、意匠法第三条第一項第三号に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができない。

〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。

別紙第一

<省略>

別紙第二

<省略>

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